誰もが陥るショーンK症候群の落とし穴と処方箋

私大出が東大出に!?

 また、別の事例にも直面している。在籍企業の担当常務との酒席で、私が真面目な話をして雰囲気を壊しかけた際に、常務が「だから赤門(東大出)は、困るのだよな」と私を揶揄し、すぐに別の話題になったのだ。私は私立大学出身で東大出ではない。しかし、なぜか、担当常務は私の大学を東大だと誤解していたのだ。  酒席のせいにするわけではないし、また口をはさむタイミングがなかったことを言い訳にするつもりはないが、その場では否定したり修正したりしなかったことが気になっていたので、次に話す機会に、私は赤門出身ではないことを話した。すると、「なんだ、早く言ってよ」というリアクションだった。もちろん、入社時には、履歴書も卒業証明書も提出しているのだが……。蛇足だが、赤門だと誤解されていたことが、それまでの私の人事にどう影響していたか、知りたくて仕方がない。  これら二つの事例は、すぐに誤解が解けたから事なきを得たものの、もし、誤解を解く機会がなかったら、あるいは、まあいいかとそのまま放置していたら、私は、「私立大学出身でブラジルのサンパウロ大学へ1年間留学した」という事実ではなく、「東大出身で米国西海岸の大学で修士を取得した」という間違った経歴が流布していたかもしれぬ。ショーンK氏を笑えないのである。

ポジティブ用語変換が人生を変える

 思うに、私が、ショーンK氏のような事態に巻き込まれなかったのは、私立大学出身のありのままの状況をポジティブにとらまえているからだ。 「なんでそんな誰も行かないような大学へ行ったの?」(事実、当時希望者は1名だったのだ)「米国大学へいけばよかったのに」、「修士はとってこなかったんだ(残念!)」とサンパウロ大学留学をいぶかしげに思うリアクションに多々接する。  もし自分の経歴をネガティブに捉えていたら、無意識のうちに、誤解を放置していたかもしれない。しかし私は、人生が変わる得難い経験をしたという思いがあるので、むしろ事実を伝えたいのだ。  すなわち、ありのままの事実を、ポジティブに捉えることができれば、誤解や学歴詐称に陥ることはなく、信頼を失墜することもない。「学歴がないから劣っている」ではなく「学歴に関係なくマーケット(顧客や視聴者)に評価されているから何よりすばらしい」と認識する。「有名な学校ではないからどうせ駄目だ」ではなく、「ユニークな学歴なので希少価値がある」と捉える。「卒業や修了をしていないから恥ずかしい」ではなく「短期間でも得難い経験をしているから価値がある」と認識するのだ。  このような認識ができるかどうかは、「ポジティブ用語変換スキル」を身に付けているかどうかによる。そして、「ポジティブ用語変換スキル」を身に付けることは、実は難しいことではない。誰でも1分間のセルフトレーニングで身に付けることができるのだ。過去は変えられない。しかし、過去をどうみるかは、いかようにでも変えられる。それを変えるのは、他ならぬ自分自身なのだ。 「ポジティブ用語変換スキル」は、山口博著『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)のドリル27で、セルフトレーニングできます。 ※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。 ■お知らせ チームを動かすファシリテーションのドリル』発売記念セミナー開催のお知らせ 本書の発売を記念して、5月12日(木)に著者・山口博氏のセミナーを開催いたします。 山口氏が開発した「分解スキル」を直接学べるチャンスです。ふるってご参加ください。 詳細はこちらから。 【山口 博(やまぐち・ひろし)】 グローバルトレーニングトレーナー。国内外金融機関、IT企業、製造業企業でトレーニング部長、人材開発部長、人事部長を経て、外資系コンサルティング会社ディレクター。分解スキル・反復演習型能力開発プログラムの普及に努める。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日経ビジネスセミナー講師(2016年)。日本ナレッジマネジメント学会会員。日経ビジネスオンライン「エグゼクティブのための10分間トレーニング」、KINZAI Financial Plan「クライアントを引き付けるナビゲーションスキルトレーニング」、ダイヤモンドオンライン「トンデモ人事部が会社を壊す」連載中。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。慶應義塾大学法学部卒業、サンパウロ大学法学部留学。長野県上田市出身。
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