「鴻夏の恋」は実るのか? 台湾メディアが見た鴻海のシャープ買収

「鴻夏の恋」、大きな夢と厳しい道のり

 シャープ買収は大きな夢へとつながっているわけだが、たとえ買収が成功したとしてもその後の道のりは容易なものではない。第一に日台双方が抱える不信感だ。郭台銘会長は事業の切り売りはしない、40歳以下の従業員の雇用維持、技術流出の防止などを約束しているが、果たして本当に守られるのか、日本に不信感が広がっているのはご存知のとおりだ。2012年の出資破談も鴻海が後出しで条件を変えたためで、約束を守らない企業とのイメージが根付いた。  一方、台湾側にも不信感はある。2012年の破談に続き、今回もシャープは後出しで債務を明らかにしてきた。不誠実な交渉をしているのは日本側だとの見方だ。また黒字化にはリストラと事業売却は不可欠で、全事業の維持というシャープの出した条件は法外なものと懸念されている。聯合新聞網は少なくとも太陽電池などのエネルギーソリューション、POS端末などの企業ソリューションの2事業売却は避けられないとのアナリストの意見を紹介した。  双方に不信感が漂うなか、それでも交渉が前進してきたのは郭台銘会長の豪腕あってのものだ。小さな町工場を世界一のEMSメーカーにまで発展させた同氏の功績は称賛に値するが、しかし近年になって判断ミスも少なくない。EMSからの脱却を目指す郭会長は近年、独自のスマートフォン・ブランド立ち上げやネットショップ開設など新事業に挑んできたが、成功にはいたっていない。EMSと独自ブランドでの販売はまったくの別物であり、天才経営者をもってしても畑違いでの経営は厳しいとの声も聞かれる。買収までもいばらの道ならば買収後も課題山積みとなる世紀の大恋愛、どのような決着を迎えるのだろうか。 <取材・文/高口康太> たかぐちこうた●ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
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