新日本プロレス復活の秘訣――「自身のメディア化」とは何なのか?

他業界では当たり前の「インフラ整備」を行ったのは新日本だけ

 結論からいってしまえば、現在の新日本プロレスは、“新日本プロレス”――国際的な市場ではNJPW――そのものがメディアなのである。ビジネス英語でいえば、インテグレーテッド・メディア・コンテンツ・プロバイダーというやつだ。公式ウェブサイトをちょこっとのぞいてみればそれがすぐにわかる。  新日本プロレスが新日本プロレスのニュースを毎日更新している。イベント情報を発信している。日程を発表して、チケットを販売している。オフィシャル・グッズを売っている。スター選手たちがオフィシャル・ブログを書いている。メールマガジンを配信している。オフィシャル・ファンクラブがある。  オリジナルの動画配信サービスNJPW WORLD(有料)を運営して、試合映像を配信している。ユーチューブ、ユー・ストリームなどの動画サイトとも連動している。選手たちの生の声が聴けるポッドキャスト番組も配信している。  ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディア(SNS)にも団体オフィシャルの情報ページから所属選手たちの個人モノまでそれぞれ公式アカウントがある。もちろん、これらのサービスはPC、タブレットだけでなくスマートフォン、ゲーム機器にも対応している。  新日本プロレスにアクセスしたかったら、だれでも、いつでも、どこでも新日本プロレスのオフィシャル・コンテンツに接することができる、いまの時代だったら、どんなジャンルでもこういうことは基本中の基本なのだろうけれど、プロレスのカンパニーでここまでインフラをきっちりと整備しているのはやっぱり新日本プロレスだけだ。  ふた昔まえまでの日本のプロレス・シーンは、いい意味でも悪い意味でも“活字プロレス”が情報発信(あるいは情報操作)のツールで、プロレス団体とスポーツ新聞、週刊誌群=専門誌は一蓮托生のような関係、持ちつ持たれつの間がらだった。  それはプロレスだけに限ったことではないけれど、いまは電車に乗ってもスポーツ新聞や雑誌を読んでいる人の姿はほとんど見かけなくなった。若者、学生だけでなく、20代から30代の若いサラリーマンもOLさんも中年のエグゼクティブも、みんなひたすらスマホとにらめっこしている。プロレスももう活字メディアのジャンルではなくて、ネット上のコンテンツなのだろう。 「ACミランと新日本プロレスが好き」「フィギュア、アニメ、プロレス、ラーメン、マンガ、温泉など」「プロレス、ロック、TRPGマニア。コンサドーレとベイスターズも好き」「プロレス、エンタメ、競馬、洋楽、TVドラマ」「プロレス、アイドル、下ネタ、野球、STG、発火モデルガン」「矢沢永吉、新日本プロレス、氷室京介、吉川晃司、仮面ライダー」「あしたのジョー、ルパン三世、アメトーーク、プロレス」  これらはプロレスが好きで、そのなかでも新日本プロレスがいちばん好きとつぶやいている人びとのツイッターのプロフィールのごく一部。プロレスのライバルはプロレスではなくて、アニメだったり、ラーメンだったり、洋楽だったり、フィギュアだったりするのである。もちろん、プロレスは生身の人間が闘っているからおもしろいのだけど……。<文/斎藤文彦>
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