「食べログ」を超える?急成長の実名制グルメサービス「Retty」事業の将来性

売上首位は「ホットペッパー」も利益は「ぐるなび」強し

 今度は業績を見ていきましょう。「ホットペッパー」が今回取り上げた決算データでは僅差で「ぐるなび」を抑え、売上首位でした。おそらく、フリーペーパーでもあるので、売りが大きくなるのだとは思いますが、さすがはリクルート、営業力は健在ですね。売上面ではこの老舗2社と「食べログ」の間には倍以上の開きがあります。  一方で「ホットペッパー」事業はリクルートライフスタイルという「じゃらん」や「ホットペッパー ビューティー」といった『日常消費』を扱う子会社に属しおり、会社全体の売上は1554億円、純利益は46億円となっています。「ホットペッパー」の売上は343億円ですので、利益額が売上に比例していると仮定すると、利益自体は「ぐるなび」や「食べログ」には及ばなそうです。紙媒体もやってますしね。  となると、純利益で32億円を上げている「ぐるなび」が利益面では暫定首位ということになります。「ぐるなび」の強みは有料店舗数も首位ではありますが、こちらは「食べログ」に数自体は迫られてきており、やはり凄いのは1店舗当たりの販売単価で、ここが利益の源泉ですね。ここは「ぐるなび」が店舗に対して、ワンストップで様々な支援を行っていることが生きています。

営業力を凌駕する「食べログ」の圧倒的な媒体力

 ただ、上記で「ぐるなび」を暫定首位としたのは「食べログ」がおそらく利益面では首位に近いと思われるためです。セグメント利益として公開されている数字は無かったために推定ですが、売上が「ぐるなび」の半分以下で、有料店舗単価もおそらく半分以下の食べログですが「ぐるなび」や「ホットペッパー」と違って、利益率の高い利用者個人への課金売上が20億円あり、会員数も急速に伸びています。  また、700万件以上の膨大な口コミに支えられたサイトはSEOにも強く、現在日本で一番使われているグルメサービスなのは間違いないです。これらの、従来より利益率の高い課金売上があること、広告で引っ張ってこなくても流入してくる莫大な集客力、という条件を考えると、カカクコム全体の高利益率40~50%が「食べログ」においても維持され、利益が60億あっても不思議はないですし、まだ純利益ベースで「ぐるなび」に届かなかったとしても、伸び代を考えれば時間の問題といえそうです。  ここまで「ホットペッパー」「ぐるなび」「食べログ」と見てきましたが、一応業界全体はまだ緩やかに伸びてますし、それぞれに強みもあって、単純にゼロサムゲームにはならなそうな印象ではありますが、それでもやはり長期的に見ると「食べログ」が強そうな印象ですね。

フェデラー、ナダル、ジョコビッチに挑む錦織圭的な?

 そして、その「食べログ」をしても、脅かす勢いが現在の「Retty」にはあるかもしれません。収益においてはまだ、上記3社と比較対象にならない「Retty」で注目すべきはやはりその圧倒的な利用者の伸びでしょう。「食べログ」の月間利用者数6830万人(しかも前年比+12%)は凄い数字ですが「Retty」の1800万人(+200%)というのはやはり凄まじい勢いです。  一方で、あるかもしれません、としたのはこの「月間利用者数」というのはやや注意が必要で、上記で触れた口コミ論争同様、企業によって表現の仕方が違ったり、例えばアプリとPCサイトとスマホサイトの利用者の重複をどうカウントするか、また今回で言えば、複数サイト使いしていてどこが結局使われるかによっても重みは違ってくるので、実際に上記3社と数字が近付いたら改めて見てみたいですね。  また、収益化に関しても、飲食店の販促費は利益率的にかなり制限されている場合も多く、単純に利用者が集まれば自然に儲かる、という話でもないと思うので、そこもバランスを取りながらやっていく必要があるでしょう。しかし「ぐるなび」の約10年後に出来た「食べログ」が追いつき追い越したのであれば「食べログ」が出来て10年経った今、それを「Retty」が追い越しても不思議ではありません。新しいタイプのグルメサービスが成立するのか、動向を興味深く見守りたいと思います。 決算数字の留意事項 基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。 【平野健児(ひらのけんじ)】 1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。
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