チェルノブイリ原発事故後、成人の甲状腺がんと事故作業員の白血病も増加!?

 福島県内での小児甲状腺がんの発生について、「通常よりも数十倍多い」とする岡山大学の津田敏秀教授らによる論文が今年10月、海外の疫学専門誌の電子版で発表された。11月19日付『朝日新聞』記事は、東電原発事故の影響による「多発」と評価する津田教授と、そうではなく「過剰診断」だとする国立がん研究センターの津金昌一郎氏の主張を掲載している(http://www.asahi.com/articles/DA3S12074780.html)

 一方、1986年のチェルノブイリ原発事故ではどのような健康影響が生じたのか。2011年に発表された「ウクライナ国家報告書」では、甲状腺がんに加えて白血病、さまざまな非がん系疾患も観察されたことが示されている。報告書をまとめた一人、ウクライナ放射線医学研究センターのアナトリー・チュマク博士が11月24日に東京都内で講演した。

被災者を一元的に健康管理したウクライナ


講演するアナトリー・チュマク博士

 ウクライナ国家報告書はチェルノブイリ事故から25年を機にまとめられたもので、事故の影響を全般的に総括する内容だ。健康影響を扱う同報告書第3章の監修を行ったのがチュマク氏である(第3章日本語訳)。

「甲状腺がんは1990年に初めて確認されました。そして甲状腺がん増加は子どもだけでなく、大人にも見られました」とチュマク氏は指摘する。がん以外の甲状腺疾患も増えたという。また原発事故作業員では、被ばく後15年以内で原発事故作業員の白血病の発生率が3倍以上となり、固形がんの発生率の増加も観察された。

 甲状腺がんの場合、チェルノブイリでは牛乳から放射性ヨウ素を摂取したことで増加したとみられる。一方、日本ではヨウ素の主要な摂取源として海産物があり、チュマク氏は「日本ではウクライナのように甲状腺がんが急増するとは考えにくい」とも述べた。

 こうした健康影響の知見があるのは、ウクライナでは国が被災者を対象に一元的に健康管理を行っているからだ。「被災者」は放射性物質による汚染が高い地域からの避難・移住者、事故処理作業員、追加被ばく線量が年間0.5~5ミリシーベルトの汚染地域に住む人が対象で、加えてここに被災者の子孫も含まれる。健診は無料で、医療費も基本的に無料。得られたデータは保健対策や放射線研究に活用される。

「事故影響か、過剰診断か?」チェルノブイリでも論争


 チュマク氏は甲状腺がんの多発について「ウクライナでも全く同じ経緯をたどりました。事故による影響か、過剰診断かをめぐり意見が分かれ、事故の影響と国際的に認められるまでに数年の時間を要しました」と話す。

 この背景には、IAEA(国際原子力機関)やUNSCEAR(国連・原子放射線の影響に関する科学委員会)による報告が、主に英語文献の評価に依存し、ロシア語などスラブ語で書かれた文献については「正式なものではないと見なしている」(チュマク氏)との事情もある。

 福島では、震災時に18才以下だった人を対象に県が実施する健康調査で152人が甲状腺がんの疑いがあると診断された。このうち、115人が手術後にがんと確定している(いずれも今年11月30日時点、福島県立医科大発表による)。

 さらに今年8月、調査における甲状腺がん検査の責任者を務めた鈴木眞一・元福島県立医大教授によるペーパーが公表された(https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf)。手術を行った104人中の96人について検討したところ、リンパ節転移を始め甲状腺外浸潤や遠隔転移などのいずれかに該当するものが92%に達していたことがわかった。これらを「過剰診断」とするのは果たして適切だろうか。

 いずれにせよ、日本においても事故の影響を受けた人々への健康調査が必要だ。しかし日本では原発から放射性物質のプルームが広範囲に拡散したにもかかわらず、健康調査の対象は福島県民に限られる。しかも、事故時18才以下の人を対象とする甲状腺健診の受診率は、1巡目の81.7%に対して、2014年4月以降の2巡目では52.6%に激減。健康影響の把握が危ぶまれる事態となっている。<取材・文・撮影/斉藤円華>


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