「もんじゅ」の頓挫が揺るがす日本の原発政策の根幹

原発政策の大義名分を支えていた「もんじゅ」

 しかしこれを、「危険で高コストで役立たずな原子炉が一つ廃炉に追い込まれそうだ」とだけ総括するのは誤りだ。確かにその側面はある。しかし、それはこの施設の一側面でしかない。  70年代のオイルショック以降、我が国の原発政策は「ベース電源の確保」と「核燃料サイクルを確立し、以って、日本のエネルギー自給率向上の礎にする」を大義名分としてきた。  言うまでもなく「もんじゅ」は、高速増殖炉技術を用いてこの「核燃料サイクル」を支える予定だった唯一の施設だ。核燃料サイクルには、高速増殖炉技術とは直接の関係のないプルサーマル計画も存在する。しかしこの計画も現在進行中ではあるものの、青森県六ヶ所村で建設中の再処理施設の稼働は延期に延期を重ねており、明確な見通しが立っていない。  つまり、「もんじゅ」存立の危機は、わが国における原発政策の大義名分だった「核燃料サイクル」の破綻をもをも意味するのだ。  無論、原発再稼働路線をひた走る現在の政府が、あらゆる手を尽くして、「もんじゅ」存続の道を模索し続ける可能性は大いにある。しかし、稼働実績のない高速増殖炉にこだわり続ければ、国際社会から「狙いは核燃料サイクルによる原発用燃料の確保ではなく、軍事転用可能なプルトニウムの確保なのではないか?」と激しい疑義が寄せられることは必至だ。(参照:『海外科学者、日本の核政策批判 「コスト高、兵器に転用可」』東京新聞2015年11月4日『プルトニウム47.8トン「日本の備蓄、これ以上増えないよう」 米大統領補佐官インタビュー』朝日新聞2015年10月12日)  あらゆる方向から検討しても、やはり今回の規制委員会による勧告は、単に「もんじゅ」の存立だけでなく、「日本の原発政策」そのものに疑問符を突きつけたものと言っていいだろう。  今後政府がどのような方向性を示そうとも、今回の原子力規制員会による勧告は、日本の原子力政策の大きなターニングポイントになる。  今後政府がどのような折り合いをつけるのか、目が離せない。 <取材・文/菅野完Twitter ID:@noiehoie) photo by nife via Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)>
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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