人気クラウドファンディング「Kickstarter」でトラブルが頻発

Ring

炎上中の『Ring』

 夢のような最新テクノロジーを投入した意欲的な製品を提案し、ネット上で支援者から出資を募るクラウドファンディング。その先駆け『Kickstarter』は、多機能クーラーボックス『Coolest』が6万2642人から1329万ドル(約14億円)を調達し最高金額を更新するなど、話題に欠かない存在だ。2009年のサービス開始以来、約6万9000のプロジェクトが生まれ、のべ690万人から13億ドル(約1兆3500億円)の資金調達に成功している。  あるようでなかったアイデアや、見たこともないユニークな技術や最先端技術による製品は、ガジェット好きを中心に注目されているが、一方でトラブルも続いている。  最近では、指輪型のウェアラブルデバイス『Ring』が、度重なる出荷時期遅延で炎上状態となっている。『Ring』は、『Kickstarter』にて進行中のプロジェクトで、指に装着して文字や数字をジェスチャー操作し、スマホなどのデバイス、さらに家電などを操作できるというガジェットだ。  2014年4月には88万ドル(約9000万円)の資金調達に成功しプロジェクトが成立。出荷時期を2014年7月としていたが、8月末、9月末と延期が重なり、支援者から寄せられたコメントに対しても沈黙を守っている。また、8月には当初発表されていたデザインから変更もあり、支援者からの不安や不満が噴出している。  開発企業のログバーは、9月2日にITmediaの取材に対して「現在、今月末発送に向けて量産が進んでいる状況」と説明している(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1409/02/news063.html)が、今度こそ無事に出荷されるのか、今後の動向に注目だ。

他にもあった支援者の期待を裏切るプロジェクト

●2012年には、クレジットカードの情報などを読み込み、決済を可能にするiPhoneケース『iCache Geode』が騒動となった。1784人の支援者から35万ドル(約3600万円)を集めてプロジェクト成立した後、正しく動作する完成度の高い製品を世に送り出すことができなかったのだ。出荷自体はしていたものの、機能しないハードウェアに支援者は激怒。最終的にはサポートページ、iCache社のウェブサイトは閉鎖され、支援者による投資額の返却などは行われなかった。 ●温かいもしくは冷たい飲み物などが入ったコップを置くと内部の空気の体積が変わることで発電機を作動させスマートフォンを充電することができるという触れ込みだった『Epiphany onE Puck』は、2013年2月から2か月間で1175人から約13万ドル(約1350万円)を調達し、プロジェクト成立。その後、出荷予定の2014年3月に「いち早く届けられるよう努力しているがキックスターターで注目されたことで大型リテーラーや投資家の注目を集めたために、最後の詰めの作業が何らかの原因で漏れた場合、特許や市場に影響する可能性があるため、我々は沈黙する」という旨を書いたあと、いまだ出荷されていない。支援者からのコメント欄には、返金を望む声や虚偽広告であると指摘する声、企画立案者のFacebookにアップするための抗議文のコピペなどが多数あがっているが、プロジェクト創設者からのコメントはないようだ。 ●Motaの3Dプリンターは、“99ドル”という格安を謳っていたものの、資金調達開始直後の2014年7月9日にプロジェクト自体をキャンセルした。理由は、想定していたレベルの製品を作るために、想定していたよりも大きなコストがかかることが判明し、実現不可能な約束をしたくないというものだった。プロジェクト成立前であれば、支援者にとっても金銭面での負担はゼロとなるため、支援者に対してはまだ誠意ある対応と言えそうだ。  プロジェクト自体のプロモーション方法にまつわるトラブルも発生している。 ●2012年1月にプロジェクトがスタートしたカメラ搭載の無人ヘリ『eye3』や、同年4月に開始したゲームプロジェクト『MYTHIC:The Story Of Gods And Men』は、他製品の写真やグラフィックを無断で転載していることなどが指摘され、プロジェクトがキャンセル、一時停止となった。  プロジェクト成立後は、基本的に返金されないとサービスによっては明記されており、支援者側が泣き寝入りとなる場合がほとんどのようだ。また、多くのトラブル事例で共通しているのが、プロジェクト創設者による支援者への対応不足も問題だ。  支援者からの大きな期待を裏切り、納得のいく説明がされなかった場合、支援者らの不満はSNSであっという間に広まっていく。それがある種の自浄作用を促すのかもしれないが、現段階ではトラブルへの十分な対応があるとは言い難い。  2014年5月、日本では「クラウドファンディング法案」が成立。未上場企業による資金調達にまつわる、トラブル防止のためのガイドラインが整備されていくことで、日本国内のクラウドファンディングサービスの活用が、より活発化していきそうだがーー。  ニッチなニーズを叶える面白い発明やプロジェクトを直接支持できるクラウドファウンディング。まだまだ可能性を秘めた仕組みだけに、このような詐欺にも近い事例が起きないように整備して欲しいものだ。 <取材・文/林健太>
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