“考えているつもり”のムダな時間と訣別するには?

 仕事に集中できないことがある。スタートダッシュに時間がかかり、とりかかった途端、些細なことで集中力が切れる。取引先からの電話やメール、オフィスでの雑談といった“雑音”にわずらわされることなく、やるべきことを着実にこなすにはどうすればいいのか。ヒントは、人気狂言作家の師弟が活躍する<並木拍子郎種捕帳>シリーズ第四弾『四文屋』(松井今朝子/ハルキ文庫)にあった。

整理がつかない考えも吐き出す

四文屋―並木拍子郎種取帳

四文屋―並木拍子郎種取帳

 本シリーズの主人公・拍子郎はあるとき、師匠・五瓶に「巷では近ごろ何か面白い話はないか?」と聞かれる。煮え切らない態度の拍子郎にいらいらした五瓶は、キセル片手に説教を始めた。 「そうして煙脂(やに)を溜め込むと、中で固まって出にくうなるのといっしょや。かりにええ思いつきがあっても、胸の中に溜め込んでたら、いざというときに出てこんようになるんやで」  現代にたとえるなら上司に質問され、“正解”に執着する余り、答えられなくなる状況だろうか。本人は真剣でも、傍目には<所在なげにぼうっとしている>よう映る事実を厳粛に受けとめたい。整理がつかないからと抱え込むと、考えはいつまでもまとまらない。失敗を恐れず、吐き出すクセをつければ、考えがまとまるチャンスも巡ってくる。

気負いを捨てる

 気負いが行動を阻むケースもある。  主人公・拍子郎は「何事にも勇をふるって飛び込む覚悟をしてこそ、人は己が一生を全うできる」と熱弁をふるう。では、なぜ拍子郎は行動に移せずにいるのか。その謎を解くカギは師匠・五瓶の「飛び込むにしても、まずどこに飛び込むかを決めなんだら、何も始まらん」という指摘にある。「勇気」や「覚悟」はいかにも勇ましいフレーズだが、裏を返せば「心の準備ができるまでは動けない」という言い訳にもなりうるのだ。  いっそのこと、五瓶のように「どこに飛びこんでも、苦労するのはいっしょや」と、うそぶくぐらいのほうが行動を起こすハードルは低くなるだろう。

あえて自分を追い詰める

 拍子郎にはあるとき、悪党に囲まれ、宿屋の二階から飛び降りて逃げる。飛び降りる瞬間は恐ろしさより、心地よさが勝ったという。話を聞いた五瓶はこんなふうに語っている。 「人は追い詰められたら後先を考えず、ぽんと空(くう)に身を預けることが出来よう。世渡りもその心意気でやったら、案外と後悔はないのかもしれんのう」  せっぱつまると、迷う余裕もなくなる。結果、思いがけない力を発揮できることがある。プレゼンや試験、提出期限などが迫ったときの「火事場のバカ力」が好例だ。少し高めのノルマを課し、強制的にやらざるを得ない状況に自分を追い込む手もある。  集中力とはいわば、没頭する瞬間の積み重ねだ。電話やメールなど、集中力が途切れる元凶が明白ならできる限り排除する。不要なプライドや躊躇、感傷といった精神的なものであれば、制御を試みる。余分なものを捨て去ることができたとき、頭もすっきりと動き出すはずだ。 <文/島影真奈美> ― 【仕事に効く時代小説】『四文屋』(松井今朝子) ―
四文屋―並木拍子郎種取帳

全五編を収録

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