「ビッグデータ」の空気で生まれ変わったひとりの地味な男――【本田哲也のパーソナル戦略PR術】

 戦略PRとは、「空気をつくって商品の売りにつなげる手法」です。前回は、空気づくりの3要素、「おおやけばったりおすみつき」(https://hbol.jp/22826)を紹介しました。今回は、「おおやけ」について深めてみましょう。公(おおやけ)とは公共性。「いかにオレはすごいか」を吹聴するのではなく、「あなたの仕事が求められる背景やトレンド」にフォーカスすることで、結果的にあなたの価値を高めようというわけです。  ひとつ例を出しましょう。あなたがずっとやらされていた仕事は、言ってみれば部内のデータ集計係。部内で注目されるのは、ガンガン売ってくる営業マン。あなたは入社以来、顧客データや販売データをコツコツと集計して蓄積してきた。席は一番はじっこ。部長の目も、女子の目も、あなたを見てはいません。いかにも地味な存在です――と、そこに大きな変化が訪れるのです。あるキーワードが、すべてを変えたのです。そう、「ビッグデータ」という言葉です。  部長は、「これからはデータで売る時代だ!」と、鼻息を荒くします。「勢い」だけで売っていた営業マンの肩身が狭くなってきました。あなたが長年苦労して蓄積してきた「データ」が、一躍脚光を浴び始め、心なしか女子社員の目にもリスペクトの光が――あなたはもはや「データ集計係」ではありません。今をときめく「データサイエンティスト」に生まれ変わったのです。  いかがですか? あえて、わかりやすい例を出しました。「ビッグデータが重要」という空気が世の中にできたことで、部内のあなたの仕事は結果的に「おおやけ」感をまとったわけです。どれだけあなたが、「オレの仕事は重要だ、データは大事だ」と叫んだところで、あなたの価値はあがりません。部内の利害関係の中の話だからです。そうではなく、もっと広い世界やトレンドの文脈が生まれることで、そしてそれはあなたの口からではなく「第三者」から発信されることで(この場合、部長はビジネス誌や役員の口から「ビッグデータ」を植えこまれたのは明らかですね)、「空気」が生まれ、あなたの価値があがるのです。  さあ、あなたの仕事の場合はどうでしょうか? ひょっとして、自らの仕事内容や立場を、矮小化していませんか? もうちょっと広い視野でとらえたときに、あなたの仕事の「おおやけ感」は高まりませんか? 例で出した「ビッグデータ」に相当するものは何か、世の中で重要視されているものは何か。  それを考え、意図的にあなたや自分の仕事をポジショニングするのです。つまり、「おおやけなコンテクスト(文脈)に、あなたの業務を当てはめてみる」ということですね。それが、パーソナル戦略PR術の大事なところです。  これは実は、「その仕事の重要性や、誰のどんな仕事の何に使われるのか(使える可能性があるのか)などの展開を考えながら仕事を行う」ということでもあります。「あなたの仕事の公共性が高まる」ということは、その仕事の価値を、あなただけではなくみんなが「共有」すること。そして、「よりみんなの役に立つようになる」ことなのです。  さて、次回は2番目の要素である「ばったり」についてお話ししましょう。 <文/本田哲也> ほんだ・てつや/1970年生まれ。セガの海外事業部を経て、1999年フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『新版 戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。国内外の大手メーカーなどを中心に、戦略PR自体はもちろん関連する講演などの実績も多数。近著に『最新 戦略PR 入門編』、『最新 戦略PR 実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など
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