安倍辞任でかき消された「山口県庁安倍首相在職日数横断幕掲揚」問題。ウヤムヤにしてはいけないワケ

時事通信フォト

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 2020年8月28日、安倍晋三首相が辞任した。  その契機になったのかは定かではないが、辞任を発表する5日前の24日、連続在職日数が2799日に達し、佐藤栄作を抜いて歴代最長となっていた。第一次政権を含めた在職日数では、すでに2019年11月20日、桂太郎を抜いて歴代最長となっている。  これにともない、首相の地元である山口県では、県庁に記念の看板や横断幕が掲げられた。県の担当者は「県民の代表として一生懸命尽力している安倍総理が最長を達成した。県庁の総意だけでなく、県民のみなさまと喜びを表現したいと考えた。上位2人が山口県出身で非常に誇らしい」と説明しているという。(参照:朝日新聞)  山口県では、2019年11月にも、やはり横断幕を出して歴代在職日数最長を祝っている。

「県庁の総意」とは何か

 まず基本的なことなのだが、国会議員は憲法上「全国民」の代表であり、首相は「全国民」の代表機関たる国会によって指名された行政府の長である。特定の県民の代表ではない。こうした公法上の規律は、地方公共団体であればより厳密に守られなければならない。藤井聡太二冠の地元の商店街が、彼の最年少タイトル獲得を祝福するために横断幕を掲げるのとは意味合いが違うのだ。  また、安倍晋三は政治家としては自由民主党という政党に所属しており、その自由民主党が議会で多数を占めたことにより首相を続けている。そして、自民党の政治を支持する者もしない者もいる。公務員にも当然ながら政治的自由があり、県庁職員の中にも安倍政権不支持の者はいるだろう。  こうした前提のもとで、県庁の担当者が説明する「県庁の総意」とは何か。まさか県庁の全職員にアンケート調査したわけでもあるまい。一部の権限者が、あやまった公法理解に基づいて、特定の政治家を応援する事業に付き合わされる安倍政権不支持の職員は、それを「県庁の総意」とされるなら、たまったものではないだろう。  もちろん公務員は自らの思想信条に反する職務を行わなければならない場合もある。たとえば生活保護制度に反対の公務員でも、困窮者を窓口で追い返すなどということは断じてあってはならない。しかし、特定の政治家の事業を称えるような政治行為に付き合わされる義務は公務員にはない

歴代在職日数最長

 ところで、総理大臣の歴代在職日数が最長になることは、それほど「偉業」なのだろうか。安定した政権を運営しているということは、必ずしも偉大な政治を行っているということにはならない。権力を掌握しているということと、権力の掌握技術が正当であるということは必ずしも一致しない。  また、安倍晋三が歴代最長になれた根本的な理由は、総裁任期を延長したからだ。もし2006年に自民党の総裁任期が3期までであれば、小泉純一郎は政権を続けることができたし、第一次安倍政権への禅譲も起こらなかっただろう。  一般的に組織のトップに任期があるのは、長期政権になることで権力の固定化と腐敗を防ぐためだ。安倍晋三は、その規定を変更することで、3期目を可能にしたのだ。
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