関西生コン弾圧はなぜ起きたのか?希薄化する働く人の権利意識<鎌田慧×竹信三恵子・前編>

提供:全日本建設運輸連帯労働組合

 労働組合員が相次いで逮捕される事件が起きている。組合員の正社員化を求めたり、作業現場でコンプライアンスを遵守するよう求めたりする活動が「強要未遂」や「恐喝未遂」に当たるとされ、セメントやコンクリート業界で働く人の組合である「関西生コン」の組合員延べ80人近くが逮捕されているのだ。  労働組合に加入して労働条件や職場環境の改善を求めることは、働く人にとっての当たり前の権利だ。それにもかかわらず、組合活動を口実に逮捕される事件が相次いでいるのはなぜなのか。 『自動車絶望工場』(講談社)や『六ヶ所村の記録』(岩波書店)で知られるルポライターの鎌田慧さんと『ルポ 賃金差別』などの著作があるジャーナリストの竹信三恵子さんが、事件の背景と、いかに抵抗していくかについて語り合った。

労働運動が長らく存在しなかったことが背景にある

竹信:この事件はとても異様な事件ですよね。ビラをまいたり労使交渉をしたりしただけで、延べ80人近くが逮捕された、ということ聞いたとき、私は、聞き間違いか、自分の妄想か、と思ったくらいです。  このようなことを防ぐために労使交渉が労働基本権として認められているわけですし、ビラまきや労使交渉は私の世代は普通に参加していました。延べ人数ではありますが、それで40人学級の2クラス分が逮捕されちゃうって、どこの国の話?と思います。 鎌田:長い間、労働運動が低迷していたことが、この事件の背景にあります。竹信さんがハーバービジネスオンラインで書いていますが(7月22日付)、関西生コン事件のひとつ、加茂生コン事件について、京都新聞では6月19日に「正社員として雇用するよう不当に要求した疑い」と報じられていました。こうした報道からわかるように、新聞記者にさえ「労働者の権利」という意識が全くなくなっています。 【参考記事】⇒正社員化要求したら「強要未遂」!? 「関西生コン事件」に見る労働三権の危機  80年代まではストライキや春闘がありましたし、労働者がデモ行進することも日常的でした。春闘では、赤旗が町のいたるところに掲げられていました。こうした光景が異様なものに感じられるほど、運動が後退してしまったんです。ですから、何かを要求したり、現状を変えていこうということが、反社会的で不当なことだと認識されてしまっている。  非正規で働く人たちの労働運動は、企業別組合ではなく、産業別組合や個人加盟の組合でやるしかありません。しかし2008年の年末から2009年の正月にかけて行われた年越し派遣村のあと、もう10年近くそうした運動が組織されなくなった。こうしたことが、労働者の権利を守る労働運動が、不当に見られるようになったことの背景にあります。

働く人の権利に対する意識が希薄化している

竹信:私は今年3月まで大学で講義をしていたのですが、多くの学生たちが「労働組合ってどこにあるんですか」、「ストライキやデモを見たことがない」と言うんですね。  そもそも労働基準法についても勘違いしている学生がいます。あるとき、学生に「労基法があるから早く帰れないんですよね」と言われたんですよ。その学生は、労基法に“1日8時間は働け”と書いてあるから早く帰れないのであって、法律がなければ6時間で帰れると思っていたようなんです。 「それは、会社は8時間までしか働かせちゃいけない、というルールだから、6時間でも帰れるんだよ」と言ったら、でも、みんな8時間を超えて残業しているじゃないですか、と言う。確かに、現状を見る限り8時間が最低時間みたいになっていますからね。  労基法が働く人を守るためのルールだということすら理解されていないんです。働き手のためのルールを守らせる労働運動が弱まった結果、労基法は会社が働かせるためのルールだという逆転した認識になっている。 鎌田:働く人には人権があります。人間的な生活をするために、労働時間は規制されているし、不当な解雇はできないようになった。世界的な運動がつくりだしてきた権利ですが、その規範が見えなくなってきた。
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会社に籠城しても警察は介入しなかった
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