シーア派の聖地巡礼を経て、イスラムの教義に触れてみた

ISとはもともと無縁のシーア派世界

 カルバラーの戦いとは預言者ムハンマドの孫でアリーの息子であるフセインが、反目していたカリフ制ウマイヤ朝との同盟を拒否し一族諸共虐殺された事件である。シーア派にとってもっとも悲劇的な出来事で、カルバラー(現在のイラク)はもっとも大切な聖地のひとつとなっている。預言者ムハンマドの親族を殺害するというのは大罪であるはずだが、この件に関しておおよそのスンニ派がどのような見解をもっているのか筆者はまだ知ることが出来ていない。  しかしながらこのようにイスラム教は現在に至るまで複雑な経緯を経て各々の宗派へと分化したわけである。今日、たびたび話題に上がるISISであるがイランなどシーア派世界での影響は振るわない。それはヒズボラの庇護下にあること、そして他国を征服して改宗を迫った正統カリフ時代を肯定しないシーア世界だからこそ、イランの現在の安定した治安は保たれているのかもしれない。もちろん筆者の見た思想も数ある宗派の一端に過ぎず、彼らの考えを紹介しきれるはずもないが、シーアの考えが皆さんの異文化への理解の一助となれば幸いである。  最後に、同行したイスラムの友人たちを紹介しておく。  モハメド・カシム-ハン:かつてパキスタンの北部、フンザという地域を治めた王族の末裔。元はマケドニアのアレクサンドロス王が出征した際にアジア地域に移り住んだブルシャスキというヨーロッパ系少数民族(本当は彼の出自だけでもう一本記事が書ける)。 アゼルバイジャンの宮殿を観光した際に「わー、うちみたい」と言っていた。  ミル-ユシフ・ガヂロフ:預言者ムハンマドの血筋を継ぐ者が冠することを許された「ミル」を名に持っている、アゼルバイジャン出身のロシア移民。10月にはイラクの聖地カルバラへと巡礼するつもりらしい。アリーの子孫であることを誇りに日々イスラムを学んでいる。 <取材・文/なかはた じゅん(TwitterID:@cider1d1l> 北京在住の大学生。日中朝英の4言語を操り、現在はロシア語の勉強中。中国にいる北朝鮮留学生や旧ソ連圏の人々と日々交流しながら、北朝鮮情勢の一端を考察している。
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