「“地域循環”、“地産地消”はキレイ事」。“地方創生の雄”兵庫県養父市トップに聞く、日本復活の鍵

 とはいえ、養父市の取り組みは順風満帆なわけではない。7月31日、市政に激震が走った。三野氏が、6か月あまりの任期を残して突如副市長を辞したのだ。  表向きは「健康上の理由」とされているが、やぶパートナーズ株式会社が経営しているローソンの不明朗な会計を理由に三野氏を糾弾するだけ糾弾し、市の改革のために旗を振ろうともしない議会に、ほとほと嫌気が差したのだという。

「俺が言うから、正しいに決まってるだろ!」

「僕がよく言うのは、『過去の延長線上に未来なし』なんです。市長があれだけエネルギーを持って改革を進めて来たということは、以前と同じ農業をやっていても意味がないということ。でも、地元の重鎮と呼ばれる人たちはあくまで過去にしがみつきたがるんですよ。『俺が言ってるんだから、正しいに決まってるだろ!』と言わんばかりの態度をとるんですね」(三野氏)

前副市長の三野昌二氏

 既得権益からの反発や、市民との意識のズレは、広瀬市長の前にも課題として立ちはだかった。  広瀬市長は、農業委員会から市長への権限移譲はもちろん、地域の高齢者の生活水準を高めるため、シルバー人材センターに登録している会員の労働時間の制限緩和や、タクシーも利用できないような山間部でのライドシェア(相乗り)を訴えてきた。  しかし、「市民の理解を得るのが、それぞれ高い壁だったのは事実です。その都度、全力で壊れるくらいにぶつかっていきました」と広瀬氏は述べる。ライドシェアを巡り、全国タクシー協会の会長が「市長、それだけはやめてくれ」と直談判に訪れたこともあったという。

コンサルタントの地方再生は「絵に描いた餅」

 地方再生の旗振り役と、住民との軋轢は、どこの自治体も抱える根深い問題だろう。今後もやぶパートナーズ株式会社で新たなビジネスを模索しながら養父市に関わっていくという三野氏は次のように締めくくった。 「これはぜひ覚えておいていただきたいんですが、自治体が地域の総合戦略を策定するため、コンサルタントに大金を払うなんて話が往々にしてあるんです。でも、実際は絵に描いた餅なので動かすことができない。コンサルタントはボロ儲けです。ホント、有り得ない話ですよ。  青写真を描くのは行政でも、実際に手を動かすのは民間。地方再生は、公民が連携してやっていかなければならないことなんです」(三野氏)  “読めない町”養父市の行き着く先が、全国の悩める自治体にとっての光明なのか。それとも、暗く深い迷宮なのか。それは地域住民ひとりひとりが「自分ゴト化」できるかどうかにかかっているのかもしれない。 <取材・文/小泉ちはる>
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