「復興・防災型」出店に東北大キャンパス取得に……。杜の都・仙台で進む「商業のイオン化」

郊外店規制の中で大型店を出す戦略

「七夕まつり」でも有名な仙台市の中心商店街(クリスロード入口)

 2015年12月に開業したばかりの仙台市営地下鉄東西線・卸町駅(仙台市若林区)。卸売業を中心とした中小オフィスが雑然と立ち並ぶこの駅の周辺は、まだ「駅前」といった雰囲気はあまり感じられない。  現在、仙台市におけるイオングループの事業計画の代表とされるのが、この卸町駅西側へのイオンリテールによる大型ショッピングセンター出店計画だ。  開業して半年ほどの卸町駅の周辺は、核となるような目立った施設はまだ少ない一方で、同駅は仙台駅から東に4kmほどと、中心市街地からも近い好立地にある。イオングループは、この卸町駅そばの約1.9haの敷地(キリンパークプラザ跡など)に、延床面積30,000㎡超の大型店舗の建設を計画している。

仙台市地下鉄東西線の卸町駅。2015年12月に開業したばかり。近隣には震災復興公営住宅を核とした複合施設も完成した

 現在、新まちづくり3法により郊外型大型店の出店は以前よりも難しいものとなっており、この卸町地区の都市計画においても、新規に出店する大型店は延床面積10,000㎡未満のもののみに規制されている。  そこで、イオングループが目を付けたのが、開通したばかりの地下鉄東西線沿線を活性化するために仙台市が設けた「仙台市東西線沿線都市計画提案制度」だった。  この制度では、東西線沿線で都市開発を行う場合は市に対し規制緩和を求めることができるため、イオンリテールは延床面積30,000㎡を超える大型店舗を建設することが可能となった。  卸町は、かつてはその名の通り卸業に特化した地域として開発された経緯があるが、昨年の東西線の開業に合わせて地区計画が変更され、現在は「商業、文化、居住」を中心とするエリアへの転換を目指している。それにともない、卸町駅前では東日本大震災の復興公営住宅とオフィス、医療機関などが集積したコミュニティプラザ「ほるせ」が整備されるなど、順調に開発が進みつつある。  そうしたなかで新駅の前にイオンの大型店が出店したならば、新たな地域の核の1つとなることは間違いなく、駅や震災復興住宅周辺の開発にも弾みがつくほか、東西線の利用客増も見込まれる。  つまり、卸町駅における新店計画は「市営地下鉄沿線と震災復興住宅周辺の開発を進めたい」という行政側と、「市街地近くに大型ショッピングセンターを出店したい」というイオン側、両者の思惑が一致した形での出店であると言える。
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マンションラッシュ続く仙台南部副都心への出店
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